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見えないところでの水かき(PLO通信63号、2013年3月)
山口 篤
水鳥といえば「水面上では優雅に見えるけれど、水面下の見えないところでは、足で水をかき続けているんだよ」という話がある。今年の卒論で四年生の有馬大地くんが、石狩湾の動物プランクトン試料を北水試の浅見大樹さんより提供を受けて、小型カイアシ類の生活史解明を目的に行っている。この過程でいろいろ調べてみて気がついたのだが、平川和正さんが、日水研に居られた時に富山湾だけでなく、日本海の様々な海域で、カイアシ類の季節変化に関する論文を発表されていた。また、昨秋(2012年10月)に、本を出版しましたとのことで、「道東プランクトン歳時記 : 釧路の海の生き物暦(平川和正著、北海道新聞社刊)」という本をお送りいただいた。一読して驚いたのだが、様々な動物プランクトンの季節変化が述べられていて、読むだけであたかも、釧路沖での動植物プランクトンの四季が頭の中で再現されているようで、息をのんだ。
こんな感覚は、前にもあったなあと思い返したら、そう、同じく平川和正さんの博士学位論文「噴火湾における浮游性橈脚類の季節分布並びに生活史に関する研究(1983年)」であった。これを読んだ時も、あたかも頭の中で、噴火湾が立体的に再現され、その中でのカイアシ類の挙動や生活史が、手にとって分かるような非常な感銘を受けた。同じ平川和正さんの筆による、釧路の海のプランクトンの季節変化、これは日本海での見えないところでの研究を地道に続けておられたからこそなのだと思う。いわば、冒頭に書いた、「水面下の見えないところでの徳行が花を咲かせ、果実をつけた結果」なのだと思う。釧路の北水研を部長さんでご退職された後にも、ご自分で検鏡して解析をされている。なんとも励まされる思いがする。学位論文が1983年であるから、30年の間にわたって、ご自分で検鏡されて解析をして、ご自分で論文を書かれている。情熱とはこういうことを指すのだと思う。
このところ、私は四十をちょっと過ぎただけなのに、すっかり自分で検鏡する時間が減って、学生さんの持ってきた原稿を直すのみになってしまっている。もちろん、そうすることによって、彼らの勉強にもなるし、それはそれで大事な役割なのだが、自分で検鏡して解析することの大切さ、それを思い知らされる出来事であった。心しなければいけないと思う。
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Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)
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