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       研究指導システムを考える(PLO通信61号、2011年3月)

                                      山口 篤

 北大プランクトン教室に今井一郎先生が京都から赴任してくださって二年になろうとしている。この間、植物プランクトンや有害・有毒藻類が研究テーマの卒論や修論の学生さんも育ち、論文博士も出て、北大プランクトン教室での研究活動がだんだんと軌道に乗ってきたことをとても嬉しく思っている。

 私が研究室を預かることになった一年と、今井先生をサポートしてきたこの二年、私の研究室指導方針は、常に学生さんのことを最優先にし、自分のことは後回しでよい、と考えている。具体的には「ドクターコースにコンスタントに進学して貰い、確実に論文を書く力をつけさせ、規定年内で修了させる」のが目的である。優秀なドクターをいかに世界に供給していくか、これが当面の課題である。

 現在、そのための研究指導システムが徐々に確立しつつあるように思う。まず一ヶ月に一回の成果報告会はとても重要である。進捗状況の良い学生はそれを目標にそれまでに結果をまとめるし、他の学生もそれを見て勉強になるし、私も頑張ろうという励みになっている。また各個人が抱えている問題を相談することにより、より広い視野からの問題解決が可能になり、研究室一丸となっての研究推進が可能になっている。

 英語で論文を書くことも必要である。これまで卒論や修論は日本語で書かれることが多かった。しかしこれでは後に発表する際に、英語論文に直す必要があった(学問の世界の共通言語は英語である)。卒論の学生さんがそのまま修士に進学しているのであれば、本人が英訳すればよいが、卒業ないしは修了してしまった学生さんの日本語で書かれた卒論や修論は、未発表のまま寝てしまうのがほとんどであった。これでは何のための努力であったのか、とても中途半端でもったいないと言わざるを得ない。今回私の指導している学生さんは、卒論と修論を英語でまとめるようにしてみた。指導している学生さんに「英語でまとめてみないか」と提案すると、「せっかくの卒論(修論)なので、ぜひやってみたい」といずれも前向きな返事と反応であったので、私もやる気が出た。

 やり方としては、図表→方法→結果→考察→序論の順にまとめていき、まず日本語で完全な状態に仕上げる。卒論など初めて論文を書く学生さんは、どこから手をつけて良いのか分からないので、仕上げるのに時間がかかる。一朝一夕には出来ないので、部分部分に分けて仕上げていく。まず図表を完全な状態にする。そして、方法を書く。方法は自分がやったことであるから、一番書きやすい部分である。そして図表を見ながら結果を書く。この間に、関連する論文を集めて、まず引用文献の形に入力した後、下線を引くような大事な箇所についてはワープロ入力をしておく。この引用文献の内容ファイルを一日論文二報or三報と決めて、毎日蓄積しておく。日々の蓄積が大切である。これがだいたい10ページほどになったら、考察を書くに耐えうるだけの知識を得たと言える。考察を書く時には、この「引用文献の内容ファイル」を印刷して、読み直して、考察で使えるか否かを判断する。考察の章立てを考えて、ロジックを考えて、それぞれの章で使用する引用文献の内容を正しく引用する。引用文献を正しく引用することはとても重要であるが(孫引きなどはもってのほか)、このやり方であれば、その論文に書かれている内容を正しく引用することが出来る。考察が出来上がれば、その論文で述べる内容も分かっているので、はじめて序論が書ける。序論は論文におけるイントロダクション、疑問提示であり、考察はそれに対する回答で、両者はちょうど二枚貝の合わせ蓋のような関係になっているので、考察が出来上がってから序論を書く方がベターである。こうして出来上がった日本語の論文は(私が指導できる範囲では)完全な状態まで校閲を行い、日本語論文として完成させる。そしてそれをおもむろに英語訳していくのである。ロジックとしては完成しているので、英語への直しは逐語訳に近い形で行う。出来た英文はまた私による校閲を行い一応完成する。私の英語もかなりあやしいのではあるが、修論の副査に入って貰ったジョン・バウアー准教授(北大水産学部唯一のネイティブの先生)には「かなり読みやすく直しやすい英文」との評価であったので、こうやってまとめた修論や卒論を学術雑誌に投稿する前には必ずネイティブの方に見て貰うことで大丈夫なのではと考えている。こういった英文校閲などのお願いが出来る海外の研究者と友人関係や人的繋がりを作っていくことはとても大切で、そのためにはPICESなどの国際学会はとても良い機会であると言える。ぜひさまざまな便宜を図ってあげて、互助的な長く続くよい友人関係を築いていけたらと思っている。

 こういった研究指導システムによる成果は今年になってから顕著で、たとえば現在DC1の学生の一人は、卒論を二報の査読付き英語論文として掲載し、修士論文も二報の原稿にまとめ、DC1の現在それらを投稿中である。また学振特別研究員(DC2)にも採用され、これはシステムとしての研究指導方法が確立しているためと言える。もう一人のDC1の学生は修士課程からの当研究室所属であるが、修論を英語でまとめ、修論の内容を二報の原稿にまとめ、DC1において一報は既に国際誌に掲載されており、もう一報も現在投稿中である。

 こういった研究指導システムを重ね続けていくことによって、彼らの実力もついていくし、私も論文を発表できるし、研究室のアクティビティも上がるという、正の方向にベクトルのあるスパイラルが出来上がりつつある。私の方も、論文は数ではないとは思うが、39歳の昨年、査読付き論文は年間7報を数え、ついに積算の査読付き論文数が自分の年齢を越えることが出来た。学生さんの研究環境とその指導を一番に考え、速やかに行動する。構成員である学生さんが幸せになることが、私としても嬉しく、研究室としてもハッピー、そういった学生さんを育てることによって自己実現していく、切磋琢磨とはそういうものなのかも知れない。

 追伸:こう書いてきて、読み直してみて少し不安になったのだが、こういった指導を受けている学生さんは幸せなのであろうか?

 皆さんが研究発表を通して自己実現して、幸せになること、それが私の願いです。でももちろん研究が全てではありません。そんなことよく解っています。押しつけはしません。人生は長いのです。トータルで見て、後で振り返った時に、ああ、楽しい時間を過ごせた、良い人生だったと思える、そういった人生になれるように、すこしなりとも、いくばくなりともお手伝いが出来たら、と思っています。私はそういった人生の伴走者になれたら嬉しいです。

 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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