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       長期航海と私(PLO通信60号、2010年3月)

                                      山口 篤

 昨年のPLO通信を出した際には教室スタッフが私一人だけであったので、2008年度は極力調査航海や長期の出張を入れないようにしていた。おしょろ丸の通称「北洋航海」に2003年から連続して乗船していたのだが、その記録は五年で途切れてしまった。しかし、今年度は今井一郎先生が赴任してくださったので、心おきなく六回目の北洋航海としゃれ込むことが出来た。今井先生には不在中になにかとご不便をおかけして申し訳なかったが、北洋航海で得た資料をもとに、ベーリング海の植物プランクトンの休眠期細胞などの新知見を出しつつある卒論の塚崎千庫さんが居たりするので、どうぞ赦して貰えたらと思っている。

 私はもともと乗り物酔いをする質で、子供の頃から列車やバスは大の苦手であった。しかし夏の家族旅行で仙台から名古屋まで行くフェリーを利用する機会が何回かあり、子供心に洋上の景色の雄大さ(見渡す限りの水平線、洋上に沈む夕日)そして洋上生活の楽しさがとても気に入っていた。大学では生来の生き物好きや釣り好き、そして船好きが理由で北大水産学部に進学した。学部四年生の時の「うしお丸」ではベットに横になったままで使いものにならなかったが、大学院生になってからはさすがに責任ある立場になると船酔いだとも言っておられず、我慢して自分の限界が見極められるようになった。

 ちょうど博士課程に進学した頃合い(1996年頃)に、乗り物酔いの薬である「アネロンニスキャップ」というのが発売・普及してきた。これは噂では米国海軍の開発で、一日一カプセルを飲めば乗り物酔い効果が持続するという、極めて優れた乗り物酔い止め薬で、大変感動したのを覚えている。私はこれを博士課程からずっとお守りのように愛用しているが、まさに神様仏様アネロン様なのである。アネロンを飲めばある程度まで洋上作業は出来るし、アネロンを飲んでも駄目なぐらいに洋上が荒れると、観測や操業自体が中止になるという、ちょうどよいバロメーターになっている。

 博士課程では水産庁の乗船アルバイトを兼ねて、外部の船に乗る機会が増えた。これは池田先生の方針で、博士論文の試料採集をさせて貰う替わりに、補助調査員としての仕事をするというものであった。これまで洋上作業については小さな「うしお丸」でさんざん鍛えられていたので、大きな開洋丸、北星丸といった船は本当に過ごし易く、まさに洋上生活を満喫させて貰った。また他の研究機関の船に一人で乗って、アルバイトとしての仕事をすることにより、自分の準備は自分自身で行うこと、礼儀作法や協調性、そして仕事に対して取り組む姿勢というものを学ばせていただいた。私にとって船は全人教育の場であった。

 博士号取得後の(株)関西総合環境センター(現在の「環境総合テクノス」)では二酸化炭素の海洋隔離研究プロジェクトの生物影響評価担当者として、金属鉱業事業団所属の大型な調査船の第二白嶺丸(総トン数2127 t)の航海を始め、海洋研究開発機構の「みらい」(総トン数8687 t)などの航海に、年間百日ほど乗船を行いました。陸にいるよりも洋上にいる方が気楽ですし(電話やわずらわしい通勤など一切なし)、しかも生きたプランクトンを使っての実験も出来ます(仕事も進む)。衣食住(三食昼寝、お風呂付き)も完備しており、お酒やタバコなどの嗜好品も免税品で安価で豊富とあれば、洋上のピアニストよろしく、陸に居るよりも洋上の方が楽しい生活を送らせていただきました。この年間百日を越える乗船にはさらに予期せぬ役得があり、乗船中は月月火水木金金で休みがないため、下船後は「代休」を消化するため長期休暇が取れたのです。この長期休暇は得られた成果を論文にまとめるのに使える、非常に有意義な時間になりました。民間会社というのはそういうところはしっかりしているので非常に助かった覚えがあります。

 北大に戻ってからも、最初の一年はおしょろ丸の北洋航海には乗りませんでしたが、次の年から乗り始め、以降ほぼ毎年のフル乗船になっております。長期航海があるというのは、私にとってはマイナスではなく、それまでに○○をまとめよう、といった目標を設定する良い機会になっており、どちらかというとプラスの作用があるように思います。刺激のないところ、変化のないところではたぶん、のんべんだらりと過ごしてしまい、後から振り返って後悔することになりますが、ある程度乗り越えられるぐらいの負荷であれば、あった方がかえって励みになり、より成果が挙がるものです。その負荷が私にとっては長期航海であるように思います。長期航海ではなかなか普段行えない生きたプランクトンを使っての実験や、現場を見てさまざまなイメージやイマジネーションが膨らみます。自由で開放感のある長期航海、これからも状況が許しうる限り乗船し、心地よい負荷として楽しんでいけたらと思っている。...ということで、また今年も北洋航海に乗らせていただけたらと思います。今年はどんなことがあるか、ますますもって楽しみです。

 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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