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日本の過当競争に思う(PLO通信58号、2008年3月)
山口 篤
最近(2008年1月)のニュースでは、温室効果ガス排出量の削減が話題に出ない日は無いといっても良い。なにしろ今年は北海道でサミットがあり、そこで日本は議長国として「実効性のある数値目標を設定したい」のだそうだ。でも、数値目標ってすでに1997年の京都議定書であったのでは?気になって調べてみた。
すると、「京都議定書でEUは、二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を、2008〜2012年に1990年比で8%削減することが義務づけられている。EU内では国別の削減目標が定められており、ドイツは同21%の削減が必要である。05年のドイツの排出量は18.7%減で、削減目標に近い数字を実現している。これは、削減目標6%減の日本が現実には7.8%増(05年度)となり、四苦八苦しているのとは対照的である。」ということが分かった。インターネットの記事は誤っているものも多いが、新聞記事で同じ数字の記事も多数あり、まず間違いないと見て良いであろう(科学論文であれば原典資料にあたるべきであろうが、これはPLO通信である)。
しかし、自分たちが議長国である会議(COP3 地球温暖化防止京都会議)で決めた数値目標に届かないだけならともかく、さらに増えているというこの体たらく。これはどうしたことであろうか。温室効果ガス排出量を減らすのは単純に考えれば、要は電力やエネルギーを消費しなかったらよいのである。非常に簡単である。
1990年とはどんな年だったのであろうか、平成2年、なんと第1回大学入試センター試験実施(1/13)、第2次海部内閣発足(2/28)、大阪で「国際花と緑の博覧会」が開幕(4/1)、礼宮さまが川嶋紀子さんと結婚、秋篠宮家を創設(6/29)、イラクがクウェートに侵攻し湾岸戦争の引き金となる(8/2)、大火傷を負った樺太在住のコンスタンティンくん(当時3歳)が、超法規的措置により日本の札幌医科大学付属病院に緊急搬送されて一命を取り留める(8/20)、西ドイツに東ドイツが編入される形で統一(ドイツ再統一)(10/3)、秋山豊寛TBS記者、ソ連のソユーズ宇宙船で日本人初の宇宙飛行士となる(12/12)、とある。何か気が遠くなってくる。
この時期に比べたら、いまは世の中にあるパソコンの台数も多いし、深夜営業の店も多いし、どう考えても消費エネルギーは多いであろう。今の学生はひょっとしたら知らないかも知れないが、コンビニエンスストアーの「7-11(セブンイレブン)」は朝の7時から夜の11時まで開いている。それが画期的だったので(!)、その時刻を店名にしたのである。今やどんな田舎に行っても、コンビニエンスストアーはあまねくあり、24時間営業だったりする。こんな体たらくで消費エネルギーを減らせているはずがない。
思うに、この日本という国は過当競争にすぎるのであろう。おそらく1990年には私の記憶が確かならば、正月三が日ぐらいは、店は開いていなかったような気がする。それが今はどうであろう。皆が競って一月一日、元旦から開いていたりする店も珍しくない。そりゃあ、競争している他店が開いていたら、こちらも負けずに開けたいのは分かるが、昔の米ソの軍拡競争ではあるまいし、たいがいにしろと言いたい。正月というのは神聖で厳かなるもので、行く末や来し方にゆっくりと思いめぐらし、おもんばかる。そういう日であったはずである。それがいつもと変わらぬ通常営業日になってしまっている。これでは従業員も幸せになれる筈もないし、そんな商売仕事のために日本伝統の文化さえ壊れてしまっている。そこまでしたら間違いなく消費エネルギー量なんて1990年より減らせる訳がないのは子供でも分かる理屈である。
ドイツが温室効果ガス排出量を削減できたのは、エネルギー効率が悪く削減の余地が大きかった東独と、基準年(90年)の後に合併したことがプラスに働いた面は小さくないそうだが、東西合併の削減効果は全体の半分弱との分析がなされているそうである。実際にEUの各国ではイギリスも数値目標(12.5%削減)を達成している。実際にドイツに住んでいる友人と話す機会があったのだが、ドイツの土日はほとんどお店屋さんが開いていないそうである。また、子供への環境教育も徹底しているようで、クリスマスツリーのイルミネーションが点灯しているのを見て、子供が「CO2を排出するエネルギーの無駄であるのにどうして?こんなことをして良いのか?」と親に聞くそうである。次世代を担う子供の環境問題への認識度合いの深刻さが、日本と差が大きいことを考えざるを得ない。
日本で昨年問題になった、さまざまな企業の「偽装問題」。これも、産業界の過当競争の現れであろう。過当競争なればこそ、1円でも安くするために、悪いことは知りつつも、原材料にかかるコストをどんどん切りつめる。効率重視効率重視、互いの競争他店よりも一時間でも多く開けて、一品でも多く売ってやろう。売ってしまったあとは知りません。後は野となれ山となれ、そんな風潮があるのではないかと思えてならない。
日本の政治というのは産業界の過当競争を抑えられないのか、全ての原因はそこにあるような気がしてならない。誰も言わないが、この国の産業界のえげつなさ、効率重視、目先のことしか考えないそのなりふり構わなさ。そこに問題の根っこはあるような気がしてならない。また本来であれば、そういった猛獣であるはずの企業法人を法律や行政で導くべきは政治であろう。しかしそんな役割を担えているとはとうてい思えず、その利権代表の代弁者にしかすぎない政治家などは、本気で地球環境や地球の将来を考えていないような気がしてならない。
彼らの認識が足りないのかも知れないが、地球環境は体内のガンと同じように、それと分かる症状が出始めてからでは、もはや末期状態なのである。間違いなく言えることは、子供達の世代に「なにもせず、自分たちだけが良ければそれで良いという狭い視野で、享楽の日々を過ごして、地球環境を壊した世代」として、きっと私たちは恨まれるであろう。地球環境というのは一つしかないのに。それを思うと、今からつらい。
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北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)
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