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                 ご挨拶と近況ご報告:平成27年

                                         今井一郎


 今冬の初雪は2014年11月13日,昨冬よりも2日遅かったですが,その後は12月になって雪が多く年末まで厳しい寒さが続き,根雪の状態で先が思い遣られました。しかし正月が明けて降雪は比較的少なく,暖かい日が続いてくれたおかげで裏路地以外は路面が出ており,今は自動車の運転に問題が無く助かっております。一昨年に家内が雪掻き中に転倒して左肘を骨折し,手術の結果が思わしくなく散々でしたが,昨年春に東京の病院で再度手術を受けてリハビリに務めた結果,完全とは参りませんが概ね復調しました。有り難いことに炊事軍曹も夏頃からお役御免となりました。これからは雪掻き等で事故の無い事を祈っています。皆様も雪掻き等を行う時は充分ご注意下さい。

 さて,毎年PLO通信で,函館周辺の美味しい海産物や農産物についての発見,マイ・プチ・ブーム等を紹介して来ています。一昨年はトキシラズやホンマス,青マス等のサケ類と,異体類の干物(ナメタカレイ,宗八カレイ)に目覚めました。昨年は少し趣を変えて,正月過ぎた頃からタラ(鱈)に新たに目覚めました。かの有名な中島廉売の紺地鮮魚店さんに結構足繁く通ったのですが,そこに『鱈の昆布〆』が置いてあるのを発見しました。鯛や平目の昆布〆は京都に住んでいた時にも口に入る事はありましたが,鱈は未経験,思わず買って帰り食してみましたらなんと美味しいこと,酒が進みます。以後,鱈が出回る季節,紺地さんに行けばほぼ毎回鱈の昆布〆を買うようになり,お陰で店のマドンナさんにしっかりと憶えられてしまいました。函館の魚屋さんやスーパーで観察しても,鱈の昆布〆は紺地さんだけでしか今の所発見出来ておりません。鱈は不思議な魚です。紺地さんでは,鱈の大きな頭と肝が一尾分で百円,青森名物の鱈のジャッパ汁を自己流でアレンジしエンジョイしております。肝の入った汁(鍋も)は素晴らしく美味で,頭の身や皮の食感が絶妙です。何と言ってもお財布に優しいです。次に試したのは「鱈シャブ」でした。鯛シャブや鰤シャブはメジャーで,旨いのですが,面白くも何ともないのです。私にとって鱈シャブは新鮮で結構美味しく,これも酒泥棒でした。今シーズン,あと何回やるか楽しみです。紺地さんではその他のお値打ち物として,鮪の頬肉(刺身にすると中トロ,ステーキにしても絶品),新鮮なホタテのヒモ(一山百円)が挙げられます。つい最近,アカザラ貝が置いてあるのを発見したので,新鮮なのを見つけたら近日中に試したいです。来年のPLO通信にご報告出来ればと思います。

 昨年のPLO通信(六十四号)で予告しましたように,昨年六月に米国シアトルのNOAAとワシントン大学のフライデーハーバー実験所に,ご招待を戴き行って参りました。アマモ場の有する有害有毒ブルームの抑制効果に関する共同研究の一貫です。米国NOAAのVera L. Trainer博士らのグループとの共同研究で,博士課程の稲葉信晴君は昨年三月?七月にNOAAに滞在し,その研究を推進しております。滞在期間中に,NOAAのNorthwest Fisheries Science Centerで開催されている『Monster Seminar JAM』というセミナーで,有害有毒プランクトンを制御する殺藻細菌の研究について紹介しました。また,フライデーハーバー実験所においても同様のセミナーを行い,アマモ場の有効性と重要性を有害有毒プランクトンの制御という新しい観点から説明出来たと思っています。自画自賛ですが,良い反応を得られたと感じました。

 休日にはシアトルの観光も出来て,特に水陸両用車『Ride the Ducks of Seattle』はTrainerさんのお子様達と共にエンジョイでき,良い思い出となりました。またパイク・プレイス・マーケットを皆でそぞろ歩き,ガム・ウォールで写真を撮り,その時はガムを持ってなかったので大人しくホテルに戻りましたが,凄く心残りだったので取って返し,ガムを買って噛んで貼付ける事を敢行しました。「アホか?」と思いながら自分なりに満足しています。

 国内では,岡山県の日生の鹿久居島現寺湾の大規模なアマモ場と牛窓の岡山県水産研究所付近をフィールドとして,有害赤潮の発生の抑制を目指して研究を継続しています。昨夏は,学生さんと共に現地調査に遠征しました。

 他の赤潮防除の研究としては,水産庁の受託研究で,海底泥中の珪藻類の休眠期細胞を有光層に人為的に持ち上げて発芽・復活させ,生じた栄養細胞によって水柱の栄養塩類を消費し尽くしてもらい,有害鞭毛藻類による有害な赤潮の発生を予防しようという研究を実施しております。今年は三年目,有害鞭毛藻の発生する季節に現場(大分県佐伯湾)で実際に試す事が出来たらと思います。しかし,なかなかその前に越えなければならないハードルが多く,まだまだ先は長そうです。

 PLOのL(Limnology)関連で,大沼公園の湖沼群においてアオコの抑制に関する研究を続けています。大沼はご存知の方も多いでしょうが,2012年にラムサール条約に登録された湖です。浮葉植物のヒシの葉と水中葉に,代表的な有毒アオコの原因生物Microcystis aeruginosaを殺藻する膨大な数の殺藻細菌が付着している事を,宮下洋平君(修士二年)等が発見し,その成果は北海道新聞に何度か報道されました。今年は,関東の霞ヶ浦付近の池等で調査研究を発展させるべく準備中です。

 昨年の出来事で,ご紹介したい主要な事項を以下に順に挙げて行きます。

 昨年三月末には,日本水産学会春季大会が我が北海道大学水産学部において開催されました。日本中から多くの方々が集い,活発な発表がなされました。私は高校生発表の部のお世話担当でした。高校生の発表と言いながら,顧問の先生のやる気とレベルが高く,発表内容がとても高校生とは思えないレベルの高さでした。十人の教官の方々による採点で優秀な発表を選び,表彰しました。

 八月一日には,予てより念願でありました「おしょろ丸V世」の竣工式が,旧函館ドック跡地の函館市国際水産・海洋総合研究センターにて,山口佳三北大総長を迎え開催されました(写真1)。船内見学をさせて戴きましたが,とても素晴らしい船です。特に安定が良く揺れにくいのだそうで,北洋航海に大きな力を発揮してくれるものと期待されます。因みに係留は,うしお丸共々このセンターの桟橋になっています。

 さて,日本学術振興会のお世話になっている方々も多いと思います。十月末に,平成二十六年度科研費審査委員表彰者が公表され,十一月六日に札幌キャンパスで表彰式が挙行されました。日本全国で約五千三百名の第一段審査(書面審査)委員の中から百七十名が選考され,北海道大学からは六名が選ばれたそうです。そしてあろう事か,私がその中の一人でした。ご参考までに,表彰状(写真2)と記念品(写真3)をご紹介致します。これまで都合四年間,若手の小さいのから基盤Sまで数多くの申請課題の審査員を務め「災難だな?」と思っていましたが,素直に嬉しく感じ少し報われた気が致します。でもよく考えたら,1990年代後半から五年以上米国の同様な研究費の審査を,毎年一?三題程度依頼されて行っており,求められるコメントの質は評価の根拠も含めて相当にきつかったのを思い出します。

 一昨年から本格的に着手された本館(管理研究棟)改修工事に伴う研究室の移転が,昨年は二度プランクトン教室の関係でありました。プランクトン教室は第一期に該当し,実験室は昨年六月に完成し三階の東端(部屋番号322と323)へと移転しました。一昨年末から管理研究棟五階の二部屋に居住していた学生さん達は,年末の十二月に実験室横の二つの部屋(部屋番号320と321)に正式に落ち着きました。まだ少し(かなり?)片付けが残っているものの,徐々に落ち着きつつあります。今は修士論文と卒業論文が佳境の時期ですが,学生さん達と物理的に近くなった分,仕事はし易くなったと感じます。

 年末十二月二十五日,水産科学研究院長室にて博士の学位授与式が執り行われました。プランクトン教室OBの宮園章さん(北海道立総合研究機構水産研究本部中央水産試験場)が,晴れて論文博士を授与されましたのでご報告致します(写真4)。思えば着手して二年以上が過ぎ,この日をやっと迎える事が出来たのは,私にとっても感無量でした。

 平成二十六年度の国内の学会活動について,以下に概略を報告します。

 私は昨年度から沿岸環境学会連絡協議会の代表として運営に当たっております。日本プランクトン学会では,山口篤准教授が評議員を努めています。昨秋は,ベントス学会との合同大会が広島大学で開催されました。プランクトン教室からも学生が参加して発表を行いました。今秋のベントス学会との合同大会は札幌で開催予定ですので,大挙して参加したいと思います。プランクトン学会関連の特筆事項としては,博士課程二年の仲村康秀君が筆頭著者の論文が英文誌Plankton & Benthos Researchの2013年の論文賞の栄誉に輝いた事が報告出来ます。

 海洋学会や水産学会へも学生と教員共に出席し発表を行っております。また,生物工学会ではシンポジウムの招待講演者として,沿岸域の生態系保全についてアマモ場の重要性を有害赤潮の発生予防の観点で講演発表を行いました。一昨年秋の三重大学での水産学会で開催した,有害有毒プランクトンの生物学に関するシンポジウムの内容を中心に,これから十年はバイブルになるという学術書を出版する作業を進めてきました。今年の夏?秋に出版予定です。乞うご期待。

 生物研究社から出版されている隔月刊誌「海洋と生物」に「有害有毒赤潮の生物学」を連載中です。平成二十六年十月までで,計三十五回刊行されました。多忙で二回飛んでしまいましたが,まだまだ代表的な有害有毒プランクトンの生物学を紹介して継続のつもりです。ご笑覧を戴ければ幸甚です。

 新奇な所では,今年の九月に陸水学会を函館の水産学部で開催します。PLOのLimnologyの面目躍如たるものがあると思います。

 国際学会では,北太平洋海洋科学機構(PICES)において,私は有害有毒赤潮部門(HAB section),AICE-AP (Advisory Panel on Anthropogenic Influences on Coastal Ecosystems),ならびにMEQ(Marine Environment Quality)の委員として活動しております。昨年は韓国の麗水(Yeosu)で年次会合が開催されました。そこでAICE-APは正式に解散となり,私の役目は一つ減りました。PICESへは我がプランクトン研究室から学生が一名出席しました。本年のPICES年次会合は,中国の青島(Qingdao)で十月に開催されます。

 私の専門分野の国際学会であるInternational Society for the Study of Harmful Algae(ISSHA: 国際有害有毒藻類研究学会)の主催で,昨年十月二十七?三十一日に,ニュージーランドの主都ウェリントンでICHA16 in New Zealand 2014 (16th International Conference of Harmful Algae) が開催されました。この学会の組織委員会において,ISSHAから派遣されたメンバーとして運営に協力し,現地で座長等を務めました。上述の海底の珪藻類休眠期細胞を用いた赤潮の発生予防についての発表を行いました。プランクトン研究室からは博士課程二年の稲葉信晴君が出席しましたが,ISSHAの選考で旅費を獲得するという快挙をなすことができました。発表はアマモ場の殺藻細菌による赤潮の防除でした。大会の最終日に発表演題の総括が会長(スペインのBeatriz Reguera博士)によってなされ,私達の発表がパワーポイントの図として特別に取り上げられるという光栄に浴しました(写真5)。そのポンチ絵は,近いうちにISSHAの情報誌である『Harmful Algae News』に紹介される予定です。本学会は隔年で西暦の偶数年に開催されます。次回はブラジルです。あまりに遠い所ですが,出来るだけ行きたいと思っています。因みに,本学会の会長選挙が昨年実施され,我が研究室と深い縁のある上述のVera L. Trainer博士が選出されました。何だかすごくISSHAが身近になって参ります。

 PICESの前後に,EASTHABという中国・韓国・日本三国の有害有毒プランクトンに関する小さめの国際学会が開催されます。本学会は隔年で西暦の奇数年に持たれますが,今年は中国の広州(Guangzhou)の予定です。

 平成二十六年度のプランクトン教室は,博士課程四名(社会人博士一名),修士課程六名(修士二年四名,一年二名),四年生六名,極地研ポスドク一名,研究生一名の総勢十八名の構成でした。平成二十六年度末で,博士課程三年は在籍せず,四名の修士二年生は三名が卒業(二名は博士後期課程進学で一名は北海道漁連に就職予定),一名は残留の予定です。現在六名在籍する四年生のうち,一人が就職(アステラス製薬),一人が他大学院進学(北大環境科学院),四名がプランクトン教室に進学の予定です。また研究生一名も修士に入学する事になりました。以上から平成二十七年度は,博士課程三年が三名,社会人の博士課程二年が一名,博士課程一年が二名の計六名の博士課程の構成となります。修士課程は二年が三名,一年が五名の計八名になりそうです。今春のプランクトン教室には新四年生が四名配属されます。以上から,学生の総勢十八名(+ポスドク一名)の所帯となり,相変わらず賑やかです。

 PLO会員の皆様,ご来函の際には新装成ったプランクトン教室へ気軽にお立寄下さいませ。学生さん達と共々大いに歓迎致します。

 末筆ながら,PLO会員の皆々様の益々のご清祥とご活躍をお祈り致します。


写真の説明文

写真1 練習船おしょろ丸の竣工式

写真2 平成二十六年度科研費審査委員表彰状

写真3 平成二十六年度科研費審査委員表彰の記念品(学術振興会)

写真4 博士学位授与式にて(左から今井一郎,宮園章氏,安井肇研究院長)

写真5 海底泥中の珪藻類休眠期細胞を活用した有害渦鞭毛藻類赤潮の発生予防に関する作業仮説


 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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