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                ご挨拶と近況ご報告:平成25年

                                         今井一郎


 私が函館に来て以来四回目の冬ですが,毎年続けて「雪の多い冬」となっているようで,今冬は1月中旬で既に例年の二倍以上の積雪量だそうです。特に今年は気温の低い真冬日が多く,流石に零下十度近くになると「痛い」感じで,これが「しばれる」という物なのだろうか?と思ったりしています。

 PLO通信で連続して,函館の豊かな海産物や農産物の素晴らしさについて書いてきました。流石にネタ切れの感があります。昨夏は自分で枝豆を茹でるやり方を調べ,七飯産の枝豆を堪能しました。濃度4%の沸騰した塩水中で4分間程度茹でるというシンプルなものですが,七飯産の良い豆は大変美味しいものでした。枝豆の美味さとこのレシピを,知り合いのフィンランドの女性科学者(Dr. Anke Kremp, 渦鞭毛藻の生活史とブルーム研究の大家)にE-mailの中でさりげなく触れたら,「今度しっかりと教えてください」という面白い展開になり,昨秋の国際有害有毒藻類会議(後述)でしっかりとお話しをして盛り上がりました。昨秋の水産学会では,会場の下関市へ枝豆を沢山持参し,お世話になった方々へ配る事が出来ました。「枝豆外交」の主役を演じてもらった感じです。

 函館空港の近くに函館市空港ふれあい菜園があり,昨年は家内が市から借りて色々と珍しい野菜を育て自家消費するという,とても贅沢な経験をする事が出来ました。トライした品種は,ヤーコン,枝豆,トマト,コールラビ,賀茂茄子,米茄子,茄子,パプリカ,スナップエンドウ,鹿ヶ谷カボチャ,パクチー,芭蕉菜,高菜,大根,人参,等々でした。高菜は流石に成長が悪くショボい葉の収穫となりましたが,自家製の高菜漬けを作った所上手く発酵が進み大変美味しい漬け物が偶然出来て,今でも毎日少しずつ楽しんでおります。鹿ヶ谷カボチャは瓢箪のような形でたったの3個の収穫でしたが,お出汁を使って薄味に炊くと絶品でした。因みに私は単なるお手伝いでしたが,なかなか面白い経験でした。次シーズンもまたやりましょうかという事になっております。

 昨年のPLO通信(62号)に予告しましたように,昨年6月には,米国ワシントン大学のフライデーハーバー実験所に,米国NOAAのVera L. Trainer博士らのグループ(サンフランシスコ州立大学William P. Cochlan教授,メイン大学Mark Wells教授,カナダの西オンタリオ大学Charles G. Trick教授)との共同研究で,2名の学生(博士課程2年の大西由花さんと修士課程2年の稲葉信晴君)と共に訪れました。ピュージェット湾(Puget Sound)に存在する約20カ所のアマモ場を対象として,有害有毒プランクトンを殺滅すまたは増殖阻害する細菌の生息を確認し,密度を推定するという研究であり,対象は有毒渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseと有害ラフィド藻Heterosigma akashiwoです。私は6月3日に出発,14日に帰国,学生達は6月末までサンファン島のフライデーハーバー実験所,その後サンプリングと試料処理のためにシアトルのNOAAの研究所に8月初旬まで滞在となりました(正直羨ましい)。写真1にサンファン島の北東に位置するスシア島の,素晴らしいアマモ場の写真を紹介します。アマモの専門家であるSandy Wyllie-Echeverria博士達が,私達を親切にもモーターボートで案内して下さいました。この界隈は国立公園になっており,生物の採集は禁じられ,釣り人もいないようでした。干潮時に上陸し,干潟を観察したところ,カレイやギンポの養魚,紫色のサイケなヒトデ,そしてダンジネスクラブ3尾とすぐに接近遭遇しました(写真2)。残念ながら即リリースです。因みに1ドル札の幅以上のカニのみ,許可を得ておれば捕獲が可能との事でした。「次回は,毒化した二枚貝を捕食したダンジネスクラブの毒化の可能性についての研究を申請し,ダンジネスクラブを試料として捕獲して,…」等と,米国チームとややグレーな冗談を飛ばし合ったのも良い思い出です。現在,データが出始めており,早く学生達による学会発表がなされるようにするのが私の責務です。帰路,シアトルで,ワシントン大学名誉教授のRita Horner博士と2時間程度面談し,プランクトンのお話を聞く事が出来たのはとても良い収穫でした。

 フライデーハーバー実験所に滞在中(6月6日),モース博士(Dr. M. Patricia Morse)のご自宅にTrainer博士と共に学生共々ご招待を戴き,ラム肉のステーキをメインディッシュとするご馳走をワインと共に戴きました。その際に偶然な話であるがPLOの大森 信先生のお話が出て,Edward Sylvester Morse Institute(モース日米交流基金)の設立についてのお話を伺いました。現在私はこの組織のSenior Fellow メンバーです。私が帰国した後の6月の下旬に日本から大森先生がフライデーハーバーに来られ,モース博士のご自宅で開催された本基金設立総会に2名の学生達と共に出席されたそうです。そういえばモース博士が一昨年に来日された時,京都を見物され,石井健一郎君がご案内して知遇を得たのも奇しき因縁と言えましょうか?

 昨年の私にとっての大きな進展としては,永年お付き合いしているラフィド藻シャットネラ(Chattonella)を対象として「シャットネラ赤潮の生物学」という専門書を,七月に生物研究社から出版した事です(写真3)。価格は2400円(+税)で,書評を日本プランクトン学会,水産海洋学会,水産学会から出して戴きました。わが国で最大の養殖魚の斃死被害を引き起こす赤潮の原因生物シャットネラについて,分類,生活史,生理,生態,被害状況,予知,防除策,etc,現在の知見の粋を多面的に紹介したものです。本書は私の検知し得た限り,AMAZONの売り上げランキングにおいて科学・テクノロジーの「海洋学」のジャンル(2000冊弱が登録)で瞬間的に7位という,専門書では有り得ないような事態が10月24日に起こってしまいました。もっとも現在(2013年1月某日)では569位という順当?なランキングでした。

 昨年のPLO通信62号にも紹介しましたが,海底泥中の珪藻類の休眠期細胞を有光層に人為的に持ち上げて発芽・復活させ,生じた栄養細胞によって水柱の栄養塩類を消費し尽くしてもらい,有害鞭毛藻類による有害な赤潮の発生を予防しようというアイディアを何とか実行したいと考えています。昨年夏には卒論生を1名,大分県水産研究部に派遣し,課題として取り組む事が出来ました。私もこの海底泥を有光層に持ち上げる現場実験のために,大分県佐伯市の研究部を訪れ,同市の沖松浦漁港辺りで実験を行いました。結果は,卒業論文と共に明らかになります。今年も引き続き検討して行く予定です。

 国内の学会活動としましては,平成二十三?二十四年度の日本プランクトン学会副会長として運営に関与してきております。昨秋は,合同大会は千葉県の東邦大学で開催されました。今秋のベントス学会との合同大会は,東北大学で開催の予定です。その他,海洋学会や水産学会へも学生と教員共にコンスタントに出席し発表を行っております。

 生物研究社からの隔月刊誌「海洋と生物」に連載中の「有害有毒赤潮の生物学」は,平成二十四年末で丸四年を迎えて合計二四回刊行されました。まだまだ続ける所存ですので,ご高覧を戴ければ幸甚であります。もう少しして丁度良い感じで内容が出版されましたら,編集し単行本として上梓したいと考えております。

 国際学会では,北太平洋海洋科学機構(PICES)において山口准教授は生物海洋科学委員会(BIO)の委員,私は有害有毒赤潮部門(HAB section)ならびにMEQ(Marine Environment Quality)の委員として活動致します。昨年は広島市で年次会合が開かれました。プランクトン研究室から4名の学生が出席しました。は本年のPICES年次会合は,カナダのナナイモ市で十月十一?二十日に開催されます。

 私の専門分野の国際学会としてInternational Society for the Study of Harmful Algae(ISSHA: 国際有害有毒藻類研究学会)がありますが,昨年十月二十九?十一月二日に,韓国の昌原市(チャンウォン:釜山の西,慶尚南道の道庁所在地)でICHA15 in Korea 2012 (15th International Conference of Harmful Algae) が開催されました。この学会の組織委員会において,ISSHAから派遣されたメンバーとして運営に協力して参りました。私は招待講演者(旅費と宿泊費支給)として,Round Table Sessionで有害有毒プランクトンを殺滅する殺藻細菌による赤潮の発生予防についての話題を提供しました。本学会では,学生さん達が出会いを得る場として,希望する学生さんに朝食付きの宿が無料で提供され,しかも無料シャトルバスが運行されておりました。プランクトン研究室からは博士課程学生3名,修士課程学生1名が出席しましたが,学振,北海道大学の後援会,JACCSカード等のご支援を得て,参加学生全員が公費で学会に出席するという快挙をなすことができました。日本プランクトン学会報の2013年2月号に,出席した学生の参加記録が掲載されます。

 滋賀県大津市の琵琶湖の畔にて,ASLO琵琶湖2012(先進陸水海洋学会水圏科学会議:Association for the Sciences of Limnology and oceanography, Aquatic Science Meeting)が,昨年七月八?十三日に開催されました。この会議では,”Frontier in Research of Harmful Algal Blooms Intending Prediction, Mitigation and Prevention”(有害有毒赤潮の被害軽減と発生予防を目指す研究の最先端)というセッションをコンビーナーとして開催しました。この学会においてはプランクトン教室の学生7名が出席しました。うち2名が学会本部から旅費の支給を得ました。学生1名の参加記録が日本プランクトン学会報に掲載されました(2012年8月号)。

 平成二十四年度のプランクトン教室は,博士課程五名,修士課程八名(修士二年五名,一年三名),四年生六名の総勢十九名の構成です。平成二十五年度は,博士課程については二名が修了しますが,一名は引き続き北極圏研究によりポスドクのような形で在研の予定です。現在の三名に加えて修士二年の五名のうち三名が進学する予定なので,博士課程学生は計六名となります。修士課程二年生の残り二名が就職予定,六名の四年生のうち一人が就職,二人が他大学院進学,三名がプランクトン教室に進学の予定で,修士課程の学生も合計六名になります。プランクトン教室には四年生を新たに五名迎えます。以上から学生の総勢十七名(+ポスドク一名)の所帯になり,相変わらず賑やかです。

 PLO会員の皆様,ご来函された際にはプランクトン教室にも気軽にお立寄下さいませ。学生さん達と共に大いに歓迎します。末筆ながら,PLO会員の皆様の益々のご活躍とご清祥をお祈り申し上げます。


 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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