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                    ご挨拶と近況ご報告

                                       今井一郎


 函館で暮らし始めて三回目の冬を過ごしています。一昨年,昨年共に「雪の多い冬」と聞いていました。その前の「普通の冬」を知らないが故に,「流石函館,北海道」と思っています。今冬は更に輪をかけて大雪の冬のようです。北海道の彼方此方で記録的な積雪が報じられ,岩見沢市では自衛隊による除雪のための災害派遣を巡っての騒動が茶の間の話題になったりしています。

 昨年のPLO通信(61号)では,函館の豊かな海産物の素晴らしさ,春の山菜取りや秋の茸採集の楽しさ,そして温泉銭湯の有り難さに感動した旨を書きました。今回は,蕎麦屋さん,枝豆とトウモロコシについて少し述べたいと思います。

 近頃は休日の昼ご飯で蕎麦屋さんに良く行きます。北海道は蕎麦の生産が日本一のせいか,函館の街を車で走っていると蕎麦屋さんが矢鱈に多い事に気付きます。蕎麦屋さんで定食だけでなくラーメンや中華丼を出している店も有り,函館の蕎麦屋さんの多芸さには脱帽です。面白い所では「スープカレー蕎麦」なるものも食したことがあります。今冬のプチマイブームはカレー南蛮,平たく言えばカレー蕎麦です。京都に住んでいた頃,冬になると「カレーうどん」を食べに彼方此方へ自動車で出動していた頃の名残かもしれません。このプチブーム,春には終わるでしょう。

 私は子供の頃にエンドウ豆の豆ご飯を一週間位連続で食べさせられ,最初は好きだった豆ご飯がそれ以来嫌いになって四十年以上が過ぎました。爾来,えんどう豆のみならず,枝豆も居酒屋さんでは誰かが注文すれば一莢摘む程度,決して好きな食べ物ではありませんでした。函館での三年目の夏,駒ヶ岳の麓,森町の政田農園に何回か通ううち,三種類の枝豆(たまふくら,黒豆,千茶枝豆)を枝豆の好きな家内の勧めで買い求めました。中でも千茶枝豆は有名な山形県のだだちゃ豆系が更に品種改良されたものだそうで,購入した日に五百g入り一袋分を常法に従い塩茹でして試食したところ,あまりの美味さにあっと言う間に完食しました。翌日が日曜日だったので,朝から車を飛ばして政田農園に出向き店頭にあった十袋程を買い占め,全部塩茹でして一部エンジョイし,残りは冷凍して後にも楽しみました。何年かに一度の大発見でした。お陰様で,四十年以上の歴史を持つ嫌いな食べ物が一つ減りました。尤も今でも居酒屋さんの普通の枝豆はやはり一莢程度ですが…。

 食べ物ついでにもう一つ目から鱗がありました。九州で育った私にとってトウモロコシは家で飼っている鶏の餌,晩夏?秋に収穫したものは実が固く,時折「おやつ」で出されましたが,「美味しい」と感じた事はありませんでした。函館でも本音は「たかがトウモロコシ,一本百円以上は高いし食べたくないよね」というもので,自分からはあまり食べようとしませんでした。三年目の夏,知り合いの方に七飯町の朝採れの美味さを紹介され,茹でて食べてみたところ,甘くてジューシー,まるで果物,新鮮な驚きでした。それ以来,朝から二本食べて「朝飯」となったりしました。味来,ゴールドラッシュ,ピュアホワイト等,品種も多く生食も可能,今夏恐らく私一人で五十本以上は食べたと思います。北海道大学の公用車で八月下旬に新日本海フェリーに乗って小樽から舞鶴に行った時,七十本買って乗船し,関連の方々に配り「トウモロコシ外交」の主役を演じ,面目躍如たるものがありました。「されどトウモロコシ」,今はトウモロコシの大ファンです。道の駅の「ゆできみ」も最初の頃は「何のこっちゃ?」でしたが,今は意味を解し好ましく思えます。

 昨年の六月,アメリカ合衆国メイン州のコルビーカレッジ(鉄仮説のマーチン博士の母校)で開催されたゴードン会議のセッション「Mycotoxin & Phycotoxin」に招待され,赤潮や有毒プランクトンの防除や予防に係わる講演を行って来ました(PLO通信61号の予告記事参照)。その講演の内容は大きく二つ,1) アマモ場には有害有毒プランクトンを殺滅する殺藻細菌が大量に生息し,そのようなプランクトンの大量発生を許さない機能がある,2) 海底泥中には膨大な量の珪藻類の休眠期細胞(発芽に光が必要)が眠っており,人為的に有光層にまで懸濁させ発芽させれば無害な珪藻類が卓越して有害な鞭毛藻類は低レベルに押さえ込む事が出来るだろう,というものでした。1) のアマモ場に関しては,ゴードン会議にご招待戴いた米国NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration: アメリカ海洋大気圏局)のVera Trainer博士(セッションの副議長)の研究グループとの共同研究に発展しつつあります。「日本のアマモ場だけでなくピュージェット湾(Puget Sound)のアマモ場にも同様の機能があるのではないか」という考えで,今年の6月にはワシントン大学フライデーハーバー臨海実験所を基地として,アマモ場の殺藻細菌の研究を博士課程の学生さんと共に始めようというものです。只今その書類の作成中です。フライデーハーバー臨海実験所における研究は,可能ならば単発に終わらせず,継続的に毎年学生さんが研究で滞在するという体制を築き,維持発展させたいと考えています。

 海底に眠る珪藻類の休眠期細胞を叩き起こして有害赤潮の発生を予防するという研究計画については,海底耕耘を行うという具体的な手法も固まり,あとは実際に現場海域において施行するという段階にあります。シャットネラ赤潮の被害が深刻な八代海での試行を熊本県の担当者に提案しましたが,不首尾に終わり,現在はカレニア赤潮に苦しむ佐伯湾で行うべく大分県の担当者と共に準備中です。具体的に施行するタイミングや場所についての打合せも終わり,学生さんの派遣も視野に入れております。 

 国内の学会活動としましては,平成二十三?二十四年度の日本プランクトン学会副会長として運営に関与します。今秋のベントス学会との合同大会は,東邦大学で開催の予定です。また前号のPLO通信でも報告しましたが,生物研究社からの隔月刊誌「海洋と生物」に連載中の「有害有毒赤潮の生物学」は平成二十三年末で丸三年を迎えて十八回刊行されました。今年(平成二十四年),無事に四年目に突入します。ご高覧を戴ければ幸甚です。

 国際学会では,北太平洋海洋科学機構(PICES)において山口准教授は生物海洋科学委員会(BIO)の委員,私は有害有毒赤潮部門(HAB section)の委員として引き続き活動します。今年のPICES年次会合は広島市の平和公園にある国際会議場で十月十二?二十一日に開催されます。PLO会員の方々もかなり出席します。

 私の専門分野の国際学会としてInternational Society for the Study of Harmful Algae(ISSHA: 国際有害有毒藻類研究学会)があり,現在その評議員(International Council Member)に選出されています。今年十月二十九?十一月二日に,韓国の昌原市(チャンウォン:釜山の西,慶尚南道の道庁所在地)でICHA15 in Korea 2012 (15th International Conference of Harmful Algae) が開催されます。この学会の組織委員会において,ISSHAから派遣されたメンバーとして運営に協力する予定です。学生さん達の研究発表の場として,世界の泰斗や将来の泰斗と学生さん達が出会いを得る場としても有効に活用したいと考えています。

 もう一つASLO琵琶湖2012(先進陸水海洋学会水圏科学会議:Association for the Sciences of Limnology and oceanography, Aquatic Science Meeting)が,七月八?十三日に滋賀県大津市の琵琶湖の畔で開催されます。この会議において,”Frontier in Research of Harmful Algal Blooms Intending Prediction, Mitigation and Prevention”(有害有毒赤潮の被害軽減と発生予防を目指す研究の最先端)というセッションをコンビーナーとして立ち上げました。この学会においても学生さん達の生長に役立つ多くの出会いがあると期待しています。また本人も発表を通じて多くの事を学んでくれると信じています。

 平成二十三年度のプランクトン教室は,博士課程五名(一名は京都大学からの特別研究学生で十二月末に帰洛),修士課程八名(修士二年三名,一年五名),四年生三名,研究生一名(中国からの留学生),単位互換留学生一名(韓国釜慶大学三年生)の総勢十八名の構成です。平成二十四年度は,博士課程については現在の四名に加えて修士二年の一名が進学する予定です(計五名)。また修士課程は二年生の二名が修了就職予定,四年生が一人就職二人進学の予定です。中国の留学生を修士進学者として迎えるので,修士一年は三名,修士二年は五名の計八名になる予定です。プランクトン教室に配属の四年生を六名迎えます。学生の総勢十九名の大所帯になる予定で,さらに賑やかになりそうです。

 PLO会員の皆様,ご来函の折にはプランクトン教室に是非お立寄下さいませ。学生さん達と共に大いに歓迎致します。末筆ながら,PLO会員の皆様の益々のご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。

 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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