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       ご挨拶と近況ご報告(PLO通信61号、2011年3月)

                                      今井一郎

 昨冬,函館の雪の多さに九州(臼杵)育ちの私は新鮮な感動を覚えましたが,今冬も劣らず真冬日が続き雪も多いので,道路の凍結や雪の轍によって通勤にやや緊張の毎日です。交差点でブレーキを踏んだにもかかわらず,スリップして停止線を大きく越えてしまったことが昨冬は2度もありましたが,今冬は今のところちゃんと止まっており,雪道ドライブにも慣れて来た模様です。雪の日に閉口するのは,帰宅前に駐車場で行う車の雪下ろしです。お腹が空いていて,手は悴むし靴は濡れて冷たく気持ち悪いので,散々です。

 しかし一方で冬の函館には,魚が美味いという大きな魅力があります。正月が明けて後,我が家では相当に高い頻度で「ごっこ鍋」を楽しんでおります。捨てる箇所の殆ど無い布袋魚(ごっこ)は,野菜を入れて煮込めばバランスの良い酒菜にもおかずにもなります。函館では魚長や中島廉売を覗くと,ごっこを始めとして様々な魚介類が並んでいます。西日本とは明らかにFaunaが違うので,とても新鮮で楽しんでいます。地元で揚がったものが多く(本鱒,鰊,ソイ,マツカワを始め多くの鰈類,カジカ類,ミズダコ,冬のヤリイカ夏のスルメイカ,北寄貝やツブ等の貝類,等々),多品種が流通しているのは,大手スーパーの決まり切った少品種の大量販売(鰺,鯖,鮪など)に比べ,明らかに食文化として豊かです。日本各地の水産による町興しに必要な基本的ヒントが,中島廉売や魚長に隠されている気がします。私が京都に住んでいた頃,瀬戸内海側では明石市の「魚の棚商店街」,関西空港付近の「泉佐野青空市場」や「田尻漁港日曜朝市」へ高速道路に乗ってよく出掛けて行き,ナマコやブダイ(関西ではイガミと呼ぶ),海水養殖したニジマス,生海苔,穴子,その他の雑魚類を大量に喜んで買って帰ったのを思い出します。日本海方面は,福井県小浜市の「若狭小浜お魚センター(小浜市水産食品センター)」,「舞鶴港とれとれセンター(道の駅)」にもよく出撃しました。魚介類の好きな人(見る,買う,食べる)がこのような市場形式の店舗に出掛ければ,さながら遊園地に放り込まれた子供のような状態となるでしょう。水産業の発展と水産による街興しには,獲る側の工夫も勿論必要ですが,売り方の上手な工夫はもっと重要ではないかと思われます。

 春になるとツチクジラ(函館では日本海のものを年間10頭捕獲)も楽しみです。その他に,春の山菜採り(行者大蒜,ヤマウド,蕗など),秋のキノコ狩り(昨秋はラクヨウ狩りに二度出撃)も,素晴らしいお師匠さん(北大水産近く小口酒店の清川さんと北海道新聞南風の釣り記事ライターの「臥牛山人先生」三上さん)に恵まれ,忘れられない行事となりました。今年も密かな楽しみとして,準備万端しておこうと考えています。中でもヤマウドは味の個性が強く,九州や沖縄の名産ニガウリ(ゴーヤ)の北海道版のように思えます。沖縄の名物料理としてゴーヤチャンプルーが有名ですが,ヤマウドチャンプルーを春の函館の郷土料理に出来るのではないかと考えています。昨春ヤマウドを大量に採って帰還した際に,プランクトン研究室でヤマウドチャンプルーをメインディッシュとしてパーティーを開きましたが,大変に美味しくてアッと言う間に大量のヤマウドチャンプルーが皿から消えてしまいました。勿論,大量のお酒も露と消えたのは言うまでもありません。将来,函館市長さんとお知り合いになったら,是非この構想を進言したいと楽しみにしております。

 もう一つの函館に関する特記事項は,市内に随所にある温泉銭湯です。つい最近,テレビで特集が放映されていましたが,掛け流しの温泉が銭湯料金で気軽に利用できるのは,素晴らしい街の魅力と言えます。しかもスーパー銭湯のような施設を備えた処も珍しくありません。もっと広く日本中にアピールすべき観光資源と思います。因みに我が家のお風呂は,基本的に近くのスポーツクラブの掛け流しの温泉です。一ヶ月当たりの利用料金を考慮しても,風呂だけに入りに行っただけで充分ペイしており,多忙を理由として実質的に「スパ会員」の状態で一年以上が過ぎ去っています。今年からはトレーニング施設も活用して,体調アップを図りつつさらに元を取りたいと考えています。

 北大プランクトンのPLOのLは,Limnologyを意味しています。私の着任と同時に,アオコ(主に有毒藍藻のMicrocystis aeruginosa)の発生と防除を対象とした研究を,琵琶湖での研究に引き続き大沼国定公園の大沼,小沼,ジュンサイ沼で継続して行っています。ヨシの茎や水草の表面のバイオフィルム中に,アオコ原因生物を殺したり増殖を阻害したりする細菌が大量に付着しています。特にヨシ帯に注目してヨシ帯の水を大沼のアオコに加えると,1000倍に希釈していても2〜3週間でアオコを殆ど全滅させることを,学生さんとの努力で見出しました。大沼の夏〜秋のアオコは観光の面でも大きな問題になっており,有毒なアオコを減らすことが出来れば環境面でも大きな福音です。今回の成果を現場で実証するのが,これからの大きな課題です。

 同様に海域では,アマモ場(アマモ葉体や海水)に有害有毒プランクトンの増殖を抑制したり殺滅したりする細菌が膨大な密度で生息しており,特にホタテガイやカキの養殖に対して脅威となっている有毒プランクトンの渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseを対象に研究を進めております。アマモ場からA. tamarenseの増殖を強く阻害する細菌が分離されたことから,貝毒の発生を予防する能力を有するアマモ場の重要性が新たに判明し,将来的には,貝毒の発生とそれに伴う出荷規制の頻度を減らすための対策技術について提言を行っていきたいと考えています。有害赤潮プランクトンの発生予防についても種々検討中ですが,来年の楽しみとして今回は敢えて隠し球にしておきます。

 平成21〜22年度の日本プランクトン学会の事務局を北大プランクトン教室で引き受け,山口准教授が幹事長,私が会長を務めて運営に当たりました。平成23〜24年度は副会長として運営に関与することになり,事務局は東京大学へ移動の予定です。また沿岸環境関連学会連絡協議会に日本プランクトン学会も加盟しており,私は副代表として運営に関係しております。直近の学会としましては,今春の日本水産学会春季大会において,日韓水産学会第1回合同シンポジウム「日本と韓国における有害有毒赤潮の発生機構,防除,ならびに海洋生物に及ぼす影響に関する研究の展開と展望」をコンビーナーとして開催致します。PLO会員の皆様のご来臨を賜りますれば幸いです。また蛇足ながら,生物研究社から隔月に刊行されている「海洋と生物」誌に,"有害有毒赤潮の生物学"を二○○九年より連載しています。二年間で十二回の連載でしたが,今後も暫くは続けていく予定です。図書館や書店などで本誌を見掛けられた際には,一度ご覧になって戴ければ幸甚であります。

 国際学会では,北太平洋海洋科学機構(PICES)において山口さんは生物海洋科学委員会(BIO)の委員,私は有害有毒赤潮部門(HAB section)の委員として昨年度に引き続いて活動中です。今年のPICESはロシアのハバロフスクで開催予定です。PLO会員の方々ともお会いできるので楽しみにしております。また,私の主たる専門分野の国際学会としてInternational Society for the Study of Harmful Algae(ISSHA: 国際有害有毒藻類研究学会)がありますが,私は現在その評議員(International Council Member)に選出されています。来年(2012年)に韓国の昌原市(チャンウォン:釜山の西,慶尚南道の道庁所在地)で開催されるICHA15 in Korea 2012 (15th International Conference of Harmful Algae) の組織委員会において,ISSHAから派遣されたメンバーとして運営に協力することになっています。

 今年出席予定の学会のハイライトは,6月中旬に米国メイン州ウォータービルにて開催されるゴードン会議です(2011 Gordon Research Conference: "Mycotoxins & Phycotoxins - Mitigation of Natural Toxin Events in a Changing World" Colby College in Waterville, Maine, June 12-17, 2011)。有害有毒プランクトンの発生予防や制御に関する研究について講演するよう依頼されたので,大変名誉なことと,素直に受けて出席する予定です。ゴードン会議(Gordon Research Conference)は,ジョンホプキンス大学教授であったN.E. Gordon博士が,最先端の科学者の交流と情報交換を促進させるため,1931年に開催したのが始まりです。爾来80年の歴史を持って発展してきています。生物学,化学,物理学の研究領域の中から,毎年およそ200のテーマが採択され,ゴードン会議として討議の対象になります。採択研究領域についてはScience誌に毎年掲載され,世界最高の研究発表が行われる国際会議として有名です。

 一昨年,論文博士の授与に関して大きな変革があり,昨年から新しいルールに基づいて論文博士が授与されることになりました。すなわち,研究歴15年(修士課程を含む),査読付きの学術雑誌に7本以上の論文を発表していることが,必要条件となっています。ややハードルが高い印象を持たれるかもしれませんが,基準が明確になったので目標と計画を立て易いかもしれません。しかしながら,一方で現在は社会人博士課程があるので,3年間この課程に在籍し博士論文を纏めれば,通常の博士課程と同様の基準で学位が授与されるので,若いうちに学位取得を目指す人は社会人博士課程に進学されることをお奨めします。昨年末,新しいルールになって初めての論文博士が,プランクトン教室の審査で誕生しました。兵庫県立農林水産技術総合センター但馬水産技術センターの西川哲也さんで,論文題名は「養殖ノリ色落ち原因珪藻Eucampia zodiacusの大量発生機構に関する生理生態学的研究」です。西川さんは北大水産学部の出身ですが,PLOのメンバーではありませんので,これをご縁にPLOの会員になって戴きました。

 平成22年度のプランクトン教室は,博士課程三名(一名は京都大学からの特別研究学生),修士課程六名(各学年三名ずつ),四年生六名の構成です。平成23年度は,博士課程については現在の三名に加えてMC2の一名が進学し,新たに京都大学修士課程から一名を迎える予定です(計五名)。また修士課程はMC2の二名が就職し四年生が三人進学の予定です。北大農学部と法政大学からそれぞれ修士進学者を迎えるので,MC1は五名,MC2は三名の計八名になる予定です。卒業研究をプランクトン教室で行う四年生を三名迎えます。さらに韓国の釜慶大学の三年生を二名(共に日本語は達者),単位互換制度を活用した制度に基づいてプランクトン教室に受け入れる予定です。学生だけで十八名の大所帯になる予定で,現状に輪を掛けて賑やかになりそうです。

 PLO会員の皆様,ご来函の節にはプランクトン教室に是非お越し下さい。学生さん達と共に大いに歓迎致します。末筆ながら,PLO会員の皆様の益々のご発展とご健勝をお祈り申し上げます。

 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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