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夏に海水浴に行って、砂浜で遊んでいると、体長5 mmぐらいのハマトビムシをよく見かけます。よくみると丸まったエビのような形をしており、端脚類(たんきゃくるい)の仲間であることが分かります。端脚類の多くは底棲性ですが、終生プランクトンとして過ごす仲間もいます。浮游性端脚類は水中をかなりのスピードで泳ぎまわり、かいあし類などをとらえて食べる典型的な肉食性動物プランクトンです。
浮游性端脚類は北方性回遊魚類のサケ・マスや海鳥類の餌にもなっており、西部北太平洋亜寒帯域において動物プランクトンと高次生物を繋ぐ、仲介的な役割をになっていますが、その生活史や生産に関わる知見や他の動物プランクトンに与える捕食の影響についての報告はほとんどありませんでした。本研究では親潮域において2年間にわたって大型ネットを用いて採集された試料を観察し、加えて発育速度に関する室内飼育実験も行い、浮游性端脚類の生活史を解析しました。さらに室内飼育実験では呼吸量や窒素の排泄量も測定し、摂餌量や生産量の推定も行いました。 |
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図 1. 端脚類4種(写真をクリックすると拡大版が見れます・別窓) |
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親潮域において浮游性端脚類はThemisto pacifica, T. japonica, Primno abyssalisとCyphocaris challengeriの4種が優占していました(図 1)。2年間の観察を行った間にT. pacificaは8世代が成長していることが確認され、世代時間は水温12℃下では35日、2℃下では86日と推定されました。同様にT. japonicaの世代時間は水温12℃下では74日、2℃下では199日と推定されました。P. abyssalisの雌は1.8〜3.3年、雄は0.9〜1.3年の寿命を持つと推定されました。C. challengeriの世代時間は水温2〜5℃の条件下では216〜478日であると推定されました(図 2)。生産量の計算から、浮游性端脚類は他の分類群の動物プランクトン生物量の0.068%を摂餌し、生産量の3.5%を消費すると考えられました。
近年、生物生産モデルとして植物プランクトンによる生産がどれだけ高次捕食者に到達するかを推定する研究が盛んに行われていますが、今回浮游性端脚類の代謝に関する詳細なパラメターが得られたことにより、海洋生態系における浮游性端脚類の役割をより正確に定量化することが可能になりました。 |
図2. 親潮域と恵山沖におけるCyphocaris challengeri の出現の季節変化
(別窓、png形式) |
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Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)
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