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季節海氷域における珪藻類の生活史戦略
塚崎 千庫(平成24年修士課程修了)
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海洋生態系の基礎生産者として重要な珪藻類の多くは、増殖に不適な環境に耐えるため、生活史戦略として休眠期細胞を形成します。植物プランクトンのバイオマスおよび優占種は、海底に蓄積する休眠期細胞の分布規模と種構成に大きく影響します。また、水柱と海底の相互作用が強い沿岸域や湧昇域では休眠期細胞がプランクトンブルーム初期個体群の供給源となり、ブルーム発生に影響します。
本研究は、珪藻類の生活史戦略として休眠期細胞形成の重要性を明らかにするため、ブルーム発生などを包括的に理解する上で重要な情報となる休眠期細胞の分布を極域において初めて調査しました。北極チャクチ海の海底堆積物表層に分布する珪藻休眠期細胞を調査した結果、他海域(亜熱帯、温帯、亜寒帯)と比較しても極めて高密度の休眠期細胞が分布することが明らかとなりました(図1)。主に、水柱における植物プランクトン優占種の休眠期細胞が海底においても優占していました。ベーリング海峡北側ではアイスアルジーであるFragilariopsis属の占める割合が高く、植物プランクトンだけでなく海氷における優占種を含めた過去のブルームを反映している点が氷縁海域に特異的な特徴でした。
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また、調査時に水柱内に分布していた珪藻類の中で、長期間の冷暗条件を耐え再び増殖できた珪藻類は休眠期細胞を形成する浮遊性珪藻類でした(図2と3)。半年間の冷暗所保存中に死滅した種は休眠期細胞を形成しない種がほとんどであり、チャクチ海の冬季環境(低温と暗黒)を生き延びる耐久性を持たないと考えられます。極域の冬季環境条件に適応して海域に根付いた優占種となるためには、休眠期を活用した生活史を持つことが必須であると言えます。
オホーツク海に漂着した流氷のアイスアルジーの構成種とそれらの生残能力を調査し、海底堆積物中の休眠期細胞の分布と比較したところ、アイスアルジー構成種が海氷融解後も底層で生存することが証明されました。海氷中のアイスアルジーの種組成には海氷の形成される海域、水深、物理過程や海底に分布する休眠期細胞の種組成と存在密度などが複合的に影響すると考えられます。
珪藻類が増殖に極めて不適な海洋環境を耐え、植物プランクトンブルームやアイスアルジーの発達において優占分類群となるために、耐久能力の高い休眠期細胞を形成することは重要な生活史戦略であることが明らかとなりました。
上記修士論文の内容が、雑誌「Deep-Sea Research II」に掲載されました(2013年10月1日)。
Tsukazaki, C., K.-I. Ishii, R. Saito, K. Matsuno, A. Yamaguchi and I. Imai (2013) Distribution of viable diatom resting stage cells in bottom sediments of
the eastern Bering Sea shelf. Deep-Sea Research II 94: 22-30.
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Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)
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