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親潮域における尾虫類群集の
季節変化、鉛直分布および生物量
小針(七戸)有里恵(平成12年修士修了)
現在:鹿児島県在住

 尾虫類(びちゅうるい, 図 1)は海洋にひろく分布する終生動物プランクトンで、「ハウス(house)」と呼ばれる特殊な濾過装置を備えた構造物を自ら造り出し、甲殻類プランクトンがほとんど利用できないナノサイズ(<10μm)およびピコサイズ粒子(0.2〜2 μm)、さらにはコロイド粒子まで効率良く摂餌することができます。また、尾虫類はハウスが目詰まりを起こすとそれを放棄し、1日に数回新しいハウスを形成します。放棄されたハウスには尾虫類の糞や植物プランクトンなど有機物が豊富に付着しているため、バクテリア、繊毛虫、かいあし類、オキアミ類、介形類、多毛類やウナギ仔魚(レプトケファルス)など非常に多様な生物にとって餌資源として利用される一方で、大型な沈降粒子(マリンスノー)の母体として、深海への物質輸送にも大きく貢献していることが知られています。

 尾虫類は非常に早い成長速度を持ち、世代時間が1〜3週間と短いため、好適な環境下では急激に個体群を増加することができます。近年、その生産量に関する研究が温帯・亜熱帯域で報告され始め、他の動物プランクトンに比べて生物量は低いにもかかわらず非常に高い生産力を示すことから、二次生産者の視点からも注目されています。さらに、放棄されるハウスの生産量も考慮すると、海洋生態系のエネルギー収支を見積もる際に尾虫類の重要性はさらに高まることが考えられます。これまでの本動物群に関する研究は主に熱帯沿岸や亜熱帯域で行われたため、亜寒帯域・極域における海洋生態系での彼等の重要性についてはほとんど知られていません。また、尾虫類は体が脆弱なため、ネット採集時に損傷を受けやすく、深海の尾虫類に関しては近年潜水艇を用いた現場観察法による報告があるのみです。

 本研究では親潮域において表面から水深2000 mまでの採集から得られた試料を用いて、表面から深海に及ぶ尾虫類群集を明らかにしました。また、主要種の生産量を推定し、亜寒帯域の海洋生態系における本動物群の生物生産における貢献度について考察しました。親潮域において、表層では優占種が季節的に入れ替わり、9月〜12月には暖水性のOikopleura longicaudaと沿岸性種のO. dioicaが、1月〜6月には冷水性種のO. labradoriensisFritillaria borealis f. typicaが優占していました(図 2)。250 m以深ではFolia gracilisFritillaria haplostomaが優占していました。主要4種(O. longicauda, O. dioica, O. labradoriensisFritillaria borealis f. typica)の年間生産量は3.4 g C m-2 year-1であり、これにハウスの生産量を加えた尾虫類の生産量は5.3g C m-2 year-1と見積もられました。また、生産量と生物量の比(Pg/B比)は238と、亜寒帯域の甲殻類プランクトンの値よりも約30倍ほど高く、亜寒帯域においても尾虫類は海洋生態系の重要な二次生産者として重要であることが示されました。

 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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