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亜寒帯太平洋における浮遊性貝虫類の
生理・生態学的特性に関する研究

帰山 秀樹(平成16年博士修了)

現在:中央水産研究所研究員
 内湾の砂浜に生息する体長3 mm程度の小さな丸い虫のような生物で、刺激を与えると青白い光を発する「ウミホタル」は発光生物として知られています。ウミホタルは2枚の貝殻のような殻に体が挟まれた形をしている貝虫類(かいちゅうるい)の一種です。貝虫類の多くは底生性ですが、終生プランクトンとして生活する種類もいます。
 浮遊性貝虫類は生息深度が表層から深層まで広範囲に渡り、中・深層において個体数が多いことが報告されています。また本動物群は雑食性であり、中・深層性魚類ハダカイワシやクラゲの重要な餌資源となっていることから海洋生態系内の物質循環およびエネルギーフローにおいて何等かの役割を担っていると考えられていますが、その生活史や生理学的特性に関する知見はほとんどありませんでした。本研究では親潮域における約1ヶ月間隔の表面から水深2000 mまでの鉛直区分採集試料を観察し、浮遊性貝虫類の鉛直分布、群集および個体群構造の季節変化および優占種の生活史について解析しました。さらに生理学的特性として代謝活性(呼吸量)、体化学成分(炭素・窒素)を測定し、親潮域の中・深層における浮遊性貝虫類群集によるPOCフラックスへの補食圧を見積もりました。
図 1. 貝虫類3種(白線は1mm)
   親潮域において浮遊性貝虫類はDiscoconchoecia pseudodiscophoraOrthoconchoecia haddoniMetaconchoecia skogsbergiの3種が優占しました(図1)。3種の主分布深度はD. pseudodiscophoraで300-1000 m、O. haddoniで450-800 m、M. skogsbergiで650-900 mと種間で微妙に異なりましたが、3種いずれについても発育に伴い分布深度が浅くなる傾向が認められました。3種は周年産卵を行っており、数的に最も優占したD. pseudodiscophoraの主要個体群は9-10月に若齢個体の加入ピークが認められ、冬から春にかけて成長し夏に成体となる1年1世代の生活史であると推定しましたが、他の2種については世代時間の推定ができませんでした(図2)。
 本研究で明らかとなった貝虫類3種の呼吸量、産卵数などを体サイズおよび生息水温がほぼ等しい表層性カイアシ類と比較したところ、貝虫類の特性として長い世代時間、少ない生涯産卵数および代謝活性の低下が明らかとなりましたが、これらは貝虫類独自の特性と考えるよりむしろ生息環境(中・深層)を反映していると考えられます。呼吸量を基に推定した親潮域における貝虫類3種の年間摂食量は、本動物群の分布中心深度である水深400 mにおける年間POCフラックスの3.7%に相当すると見積もられました。

図2. 親潮域におけるDiscoconchoecia pseudodiscophoraの各発育段階の季節変化

 Copyright 2003 Plankton Laboratory
北海道大学大学院 水産科学研究科 多様性生物学講座(プランクトン教室)

 

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