プランクトン講座 ゼミ要旨集

2002. 6. 20 演者: 山口 篤
沿岸親潮における動物プランクトン群集の特徴

山口 篤・志賀直信
(北大院水産)
はじめに:
沿岸親潮は北海道南東岸を西流する親潮の中でも、融氷水を起源とするきわめて低温(<2℃)低塩分(<33‰)な水塊である。沿岸親潮の流入は噴火湾におけるスケトウダラ稚魚の生残や岩手県三陸沖におけるイサダ漁の好・不漁を左右する要因として考えられているが、実際の沿岸親潮中における動物プランクトン群集が他の親潮域(親潮接岸分枝)と異なるのか否かについてはよく知られていない。本研究は沿岸親潮の動物プランクトン群集の特徴を明らかにすることを目的として行われた。

方法:
北海道南東部釧路沖において採集された3種類のプランクトン試料について解析を行った。3種類とは、(1)季節的試料: 1980年12月から1982年4月にかけて沿岸から沖合までの10定点において1-2ヶ月毎に採集されたNORPACネット0-150 m鉛直曳き試料、(2)鉛直的試料: 1988年4月に沿岸から沖合までの5定点において採集されたMTDネット試料、および(3)水平的試料:1995年5月19日から29日にかけて襟裳岬から落石岬にかけての46定点において採集された80 cmリングネット0-150 m鉛直曳き試料の3種類である。いずれのネットも目合いは0.35 mmで、得られた試料は5%ホルマリンで固定後、湿重量を測定し、(2)と(3)の試料については可能な限り分類群、種、発育段階毎にソートし、計数を行った。

結果と考察:
動物プランクトンバイオマスは有意な季節変動を示し、6月に高かった(p<0.001, one-way ANOVA, Scheffe's Post-Hoc Test)。沿岸親潮の流入は2-4月に見られ、これは当海域のバイオマスピークの前であることが分かる。鉛直的にどの層も最優占分類群はかいあし類で、沿岸親潮中では特に小型かいあし類のAcartia longiremis、Pseudocalanus newmaniとP. minutusが優占しており、分布深度もそれぞれ表面、10-20 m、30 m以深と種間で異なっていた。水平的に動物プランクトン個体数とバイオマスは襟裳岬寄りの西側で高い傾向が見られた。出現個体数とバイオマスともに水柱積算水温と正の相関があり、低水温(<2℃)の沿岸親潮中では低かった。これはバイオマスを左右する大型かいあし類の発育段階組成が沿岸親潮では休眠中の後期発育段階のみであったのに対し、水温2℃以上の海域ではこれに加えて初期発育段階が多く出現したためである。

 以上まとめると、沿岸親潮の動物プランクトン群集は小型なかいあし類が卓越し、個体数は多いがバイオマスは親潮接岸分枝よりも低いことが特徴である。沿岸親潮の流入する2-4月は当海域の春季ブルーム期に相当するため、動物プランクトンの成長、再生産に餌制限はなく、水温によって規制されていると考えられる。沿岸親潮の動物プランクトン群集の個体数とバイオマスが親潮接岸分枝よりも低い要因として、低温な環境下で成長が遅いことが影響していると考えられる。