プランクトン講座 ゼミ要旨集

2002. 5. 26 演者: 池田 勉
Bradford-Grieve, J.M., S.D. Nodder, J.B. Jillett, K. Currie and K.R Lassey (2001)
Potential contribution that the copepod Neocalanus tonsus makes to downward carbon flux in the Southern Ocean.
J. Plankton Res., 23: 963-975.

南大洋の炭素鉛直フラックスにおけるかいあし類Neocalanus tonsusの潜在的貢献
 我々人類による化石燃料消費の結果、放出される二酸化炭素の長年にわたる大気中への蓄積が地球温暖化の主要因と考えられている。海洋は赤道海域を除いて(ここでは発散)このようにして蓄積された大気中の二酸化炭素の一部を吸収するが、その量は海域によって、また同一海域でも季節によって異なることが近年の広域的調査で明らかにされている。
 著者らは、二酸化炭素の吸収海域として知られる広大な南大洋において、同海域に生息するかいあし類Neocalanus tonsusの個体群の個体発生的鉛直移動によって、表層から中・深層へ鉛直的に運搬される炭素量を見積もった。Neocalanus tonsusは北太平洋亜寒帯域に生息するNeocalanus属かいあし類と同様に表層で成長し、その後深層に潜り産卵する生活史をもつ。その結果、亜南極域、亜熱帯フロント周辺域での本種の個体発生的鉛直移動によって深層に輸送される炭素量は1.7−9.3gC m−2 year−1と見積もられた。南大洋における本種の分布域を55.6×106km2とすると毎年0.17Gtの炭素が深層に運ばれることになる。また、この量は同海域の年間基礎生産量の1.4%に相当し、水深1000mにおける鉛直粒状炭素フラックスの約3倍に相当することが判明した。
 本論文では、様々な資料を集めて南大洋以外の東部北太平洋や北大西洋における大型かいあし類の個体発生的鉛直移動に伴う炭素の鉛直輸送についても試算をし、それぞれの海域に出現するかいあし類の生活史の種特異性、餌となる植物プランクトンの相違により深層に輸送される炭素量が異なることを議論している。