プランクトン講座 ゼミ要旨集

2002. 5. 17 演者: 松山洋平
Carappo, C., 2002.
Variability and interaction of phytoplankton and bacterioplankton in Varano lagoon (Adriatic Sea)
Journal of Plankton Research 24: 267-273

Varanoラグーン (アドリア海) における細菌と植物プランクトンの変動および相互作用
 細菌は外洋域では、植物プランクトンの細胞外有機物や動物プランクトンの摂餌によって生じる溶存有機物質 (DOM) を取り込んでいる。しかし沿岸域では、細菌は河口や底泥から他生的物質を取り込み、粒状有機物質 (POM) プールとなる。貧栄養水中では、微小藻類によって生産された後に炭素の約半分は、細菌によって取り込まれることが報告されている。しかし主に沿岸域では、細菌と植物プランクトンに関連性がない場合もある。

 Varanoラグーンは高栄養塩の淡水が流れ込む、浅い河口である。本研究はVaranoラグーンの水理環境、栄養塩、植物プランクトン、細菌の調査を行い、細菌量と物理的要因の関係および、細菌と植物プランクトンの個体群の関係を明らかにする事を目的とした。調査は1997年3月から1998年2月にかけて毎月1回、ラグーン内の12地点で各々表面水および水深4 mから採水を行った。栄養塩分析はStrickland & Parsons (1972) の分析マニュアルに基づき、クロロフィルa濃度は分光光度法で測定した。植物プランクトンはUtermohl法で検鏡 (400倍) した。細菌の細胞計数は蛍光顕微鏡 (1.000倍) で各サンプル25視野について行った。また、細菌に対する植物プランクトンおよび栄養塩(NH+, NO2, NO3, PO43−) との相関を調べた。

 POMおよび全リン (PTOT) は細菌と正の相関が見られたが、栄養塩 (主にNO2, PO43‐) は細菌と負の相関が見られた。更に細菌細胞数は植物プランクトンバイオマスと正の相関が見られた。植物プランクトンは鞭毛藻および珪藻が観察され、前者は全期間出現したが、後者は3月、7月および秋に細胞数のピークを持った。細菌の細胞数は9月から10月にかけて細胞数のピークに達し、冬になるにつれて減少した。

 本研究で、植物プランクトンブルーム後に細菌のピークが起こることより、細菌個体群は植物プランクトン量に依存していると考えられる。また、セストンの多くが植物プランクトン由来であったことより、POMに関しても植物プランクトンの変動に依存していると考えられた。リンに関してはラグーン内では無機リンは無視できるくらい少量で、多くは有機態の形で存在する。そのため、細菌量と全リン (PTOT) との間には正の相関が見られたものと解釈される。一方その他の栄養塩類は細菌の増殖に伴い、取り込み量が増加するため負の相関が見られたと考えられる。また、細菌の成長増殖は、植物プランクトン量、栄養塩濃度の他に動物プランクトンの幼生等の細菌食者による捕食が制限要因と考えられる。