プランクトン講座 ゼミ要旨集

2002. 5. 17 演者: 松永恵美
Liu, H., K. Suzuki and T. Saino, 2002
VPhytoplankton growth and microzooplankton grazing in the subarctic Pacific Ocean and Bering Sea during summer 1999.
Deep-Sea Research I 49: 363-375.

1999年夏季北太平洋亜寒帯域およびベーリング海における植物プランクトンの増殖速度および微小動物プランクトンによる摂食速度
 北太平洋亜寒帯域、特に北東部は周年に渡って高栄養塩低クロロフィル (HNLC) 海域であることが知られている。HNLC海域では植物プランクトンの生産とバイオマスの制限要因として微量元素である鉄の不足と共に、微小動物プランクトンの摂食が考えられている。例えばStn. P (50N, 145W) では周年クロロフィルa濃度は低く、植物プランクトンは春から夏季には一日に当たり一回の分裂で、冬の間の増殖速度は低く、微小動物プランクトンによる摂食とほぼ釣り合っていることが知られている。しかし、西部北太平洋亜寒帯域では、このような測定はほとんど行われていない。本研究では西部北太平洋亜寒帯域およびベーリング海におよぶ広い海域において、植物プランクトン増殖速度と微小動物プランクトンの摂食速度を明らかにすることを目的とした。

 調査はStn. KNOT (44N, 155E) から南ベーリング海を通りアラスカ湾までの14測点で、1999年6月25日から7月22日にかけて行われた。試水はそれぞれの測点で、水深0-50mまでの1-3層をレバーアクション型ニスキン採水器で採水した。植物プランクトンの増殖速度と微小動物プランクトンの摂食速度は希釈法を用いて測定した。なおその際、クロロフィルa濃度は蛍光光度計を用いて測定し、ピコ植物プランクトンの計数および分類はフローサイトメータで行った。

 西部亜寒帯循環、ベーリング海、アラスカ湾、アリューシャン海溝において、栄養塩を添加しなかった植物プランクトンの平均増殖速度 (μO) は0.33,0.41,0.20,0.49 d-1であり、摂食による平均死亡速度 (m) は0.34,0.27,0.20,0.49 d-1であった。μO/μn (μn :栄養塩を添加したときの増殖速度) の平均は0.9となり、いくつかの測点を除いて栄養塩制限は認められなかった。西部亜寒帯循環、アラスカ湾、アリューシャン海溝ではm/μ0が高かったことから、植物プランクトンの増殖速度と微小動物プランクトンの摂食速度はほぼ釣り合っていたものと考えられる。ベーリング海ではm/μ0=0.65でありこれは珪藻‐渦鞭毛虫の食物連鎖がこの海域において比較的重要であることを示していると考えられる。

 フローサイトメトリーで測定した増殖速度は、西部亜寒帯循環、ベーリング海、アリューシャン海溝ではクロロフィルaによる値よりも低くなり、アラスカ湾では両者ほぼ似たような値を示した。これは、アラスカ湾を除く海域では、珪藻のような大型植物プランクトンの増殖速度がピコプランクトンよりも速いことに起因し、アラスカ湾では鉄不足による大型植物プランクトンの増殖速度抑制があるものと考えられる。