プランクトン講座 ゼミ要旨集
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2002. 5. 09 演者: 岡崎健作 | ||
Tsuda A., H. Sugisaki, S. Kimura (2000) Mosaic horizontal distribution of three species of copepods in the subarctic Pacific during spring. Mar. Biol. 137: 683-689 春季太平洋亜寒帯域におけるカイアシ類3種のモザイク状水平分布 |
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動物プランクトンは時として高密度に分布する。そのような高密度の分布を"パッチ"と呼ぶ。パッチには「バイオマスパッチ」、「群集パッチ」の2種類があり、前者は種組成に関係なく高密度に動物プランクトンが集合する場合を示し、後者は特定の種が高密度の群集を形成する場合を示している。これまで北太平洋では群集パッチ形成の理由を解明するためにいくつかの試みがなされてきたが、多くは顕微鏡などを用いて小規模なパッチを解析したものであり、中規模(meso-scale)のパッチを調べた研究ではNeocalanus cristatus 1種についてのみである。本研究では北太平洋亜寒帯海域で優占するカイアシ類3種(N. cristatus, N. flemingeri, Metridia pacifica )の群集パッチを解析することを目的とした。 調査は北太平洋亜寒帯海域に設けられた1定点(Stn. A)とそれを通る4測線において1991年5月10日から6月11日にかけて行った。Stn. Aでは船の速度を1.85km/h でfine-scaleの解析を行い、4測線ではmeso-scaleの情報を得るため船の速度を30.6km/h で、それぞれ船底(水深5m)から採水を行いOPC(Optical Plankton Counter)を用いて動物プランクトンの分布を調べた。OPCは採水により得られるプランクトンの個体数と体サイズを記録する装置である。ネット採集と違い定点観測ではなく、水平面を連続的に観測できる利点を持つが、体サイズから種を同定するため、一般に同定の精度が乏しい。しかし、北太平洋亜寒帯域では種組成が単純であり、またOPCと同時に顕微鏡による調査も合わせて行った結果、体サイズによる種同定は一定の精度があると判断された。以上より、カイアシ3種のパッチを特定し、それぞれのパッチサイズ、パッチ間の距離を測定した。 meso-scaleの調査ではM. pacifica、N. flemingeriはそれぞれ最大パッチサイズが3.6km を記録、またN. cristatusは6.6km のパッチサイズを示したが、ほとんどのパッチサイズは510m 以下の小さいサイズのものであった。これらの3種のパッチのうち75-81% が単独で出現した。パッチサイズの分布は3種とも似たような傾向を示しており、他の地域で行われた研究と同様であった。複数種が共存するパッチも存在したが、63-83% のパッチが特定種によって占められていた。複数種からなるパッチではM. pacificaとN. cristatusがともに出現することが多く、これとは対照的にN. flemingeriのパッチが他種とともに出現することは稀であった。この結果はfine-scaleにおいてもほぼ同様の傾向を示した。このように、カイアシ類3種のパッチの多くは単一種からなり、単独でモザイク状に分布していることが示された。また、複数種でのパッチ形成は、植物プランクトンでは数種が一斉に増殖し交じり合うことが原因であると考えられているが、カイアシ類の生活史は数ヶ月から年単位に渡っており、再生産による混交は考えにくく、異なる深度での住み分けや物理的環境が引鉄となっていることが考えられた |