プランクトン講座 ゼミ要旨集
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2002. 5. 09 演者: 佐野史和 | ||
T. Ikeda, Y. Kanno, K. Ozaki, A. Shinada Metabolic rates of epipelagic marine copepods as a function of body mass and temperature. Marine Biology (2001) 139:587-596 表層性カイアシ類の代謝速度とその体重量・生息水温の関係 |
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動物プランクトンは全海洋に広く分布し、その出現量は表層に多く、深度の増加に伴い指数関数的に減少する。表層性動物プランクトンは植物プランクトンの光合成によって生産された有機物を高次栄養段階の生物へ転送する仲介者であると同時に、動物プランクトンが排泄した窒素とリン酸の化合物は植物プランクトンの成長のために必要な栄養塩となる。本研究は表層性動物プランクトン群集の大部分を占めるカイアシ類の代謝速度(酸素消費、アンモニア排泄、リン酸塩排泄)が、その生息水温や体重量(乾燥重量、炭素重量、窒素重量、リン重量)からどの程度予測可能かを広範な海域の表層(水深250m以浅)に生息する種について、著者らがこれまで収集した資料を用いて解析した。 本解析に用いた代謝速度−生息水温−体重量のデータセットは世界のさまざまな海域で水深250m以浅の表層に分布するカイアシ類について著者らがWater-bottle法で得たものである。同じ種でも成長段階、季節、調査場所が異なる場合は別のデータセットとして扱った。これら種を海域別に分けると、南極及び北極種それぞれ4種、亜寒帯種12種、亜熱帯種16種、熱帯種16種である。それぞれの代謝速度測定に使用したカイアシ類の種は本解析に用いた代謝速度、速度資料はすべてWater-bottle法で測定されたもので、酸素消費速度は35種、43データセット、アンモニア排泄速度は38種、58データセット、リン酸排泄速度は20種、31データセットである。解析には生息水温と体重量を独立変数とし、代謝速度を従属変数とした重回帰モデルを用いた。 その結果、重回帰モデルから計算された各代謝速度の変動に対する生息水温、体重量の寄与は酸素消費速度で最も高く(93〜96%)、アンモニア排泄速度(74〜80%)、リン酸塩排泄速度(46〜56%)がそれに続いた。4つの体重量の単位の内で最もよい相関関係が見られたのは窒素重量で、乾燥重量がこれに続いた。体重量の単位により、Q10はわずかに変化し、酸素消費速度で1.8〜2.1、アンモニア排泄速度で1.8〜2.0、リン酸塩排泄速度で1.6〜1.9だった。代謝商(O:N、N:P、O:P原子比)における体重量や水温の影響は小さかった。今回の解析で使用したデータは主としてカイアシ類のものであり、今後未成体、幼体の資料を含めて、改良する必要がある。このような全海洋に生息するカイアシ類の代謝速度を少数の単純なパラメーター(ここでは生息水温と体重量)から正確に予測できるモデル作業の試みは、海洋の生物過程をグローバルな観点から把握する上で極めて重要であると思われる。 |