プランクトン講座 ゼミ要旨集

2002. 5. 02 演者: 小澤美穂
N. Choe, D. Deibel
Seasonal vertical distribution and population dynamics of the chaetognath Parasagitta elegans in the water column and hyperbenthic zone of Conception Bay, Newfoundland.
Marine Biology (2000) 137 : 847 - 856

NewfoundlandのConception湾における水柱、近底層の毛顎類Parasagitta elegansの季節的な鉛直分布と個体群動態
 毛顎類は肉食動物であり世界中の海洋でみられ、メソ動物プランクトンのバイオマスの5〜15%を占める。毛顎類は他の動物プランクトンの捕食者として海洋の食物網において重要な役割を果たすため、これらのバイオマス、再生産、増加率の季節的変化を知ることは食物網研究において重要である。しかし、従来の鉛直採集だけでは水柱内のサンプルしか採集できないため、近底層における毛顎類の情報が欠落しており、これは出現個体数やバイオマスの過小評価、生活史や個体群動態の誤った見積もりを引き起こす可能性がある。実際、NewfoundlandのConception湾では、底部から数m内に毛顎類の1種であるParasagitta elegansが集積しているのが、潜水により確認されている。そこで本研究ではConception湾において、水柱に加え、近底層からもサンプリングを行い、P. elegansの季節的な鉛直分布と個体群動態を調べた。

 調査は1997年4月〜98年6月に深度235mのConception湾(47°32.2′N; 53°07.9′W)で行った。標本は水柱域(50‐175m層と175‐225m層)からは開閉タッカ−トロールを用いて、近底層(底部から1m)からは開閉底表ソリネットを用いて採集し、一部は凍結乾燥させ残りは4%ホルマリン溶液で固定した。凍結乾燥させたサンプルは乾燥重量を測定した後、炭素含有量を測定し、固定サンプルは成長段階別に個体数計数、体長を測定した。

 近底層における平均出現個体数は全平均出現個体数の6%、平均バイオマスは全平均バイオマスの25%を占めた。主に未成熟個体は水柱内から、成熟個体は近底層から採集された。近底層では、調査期間中に異なった体長頻度をもつ3つのコホートが現れ、そのうち2つは再生産するのに十分に成熟した個体であり、平均体長が33o、41oであった。また前者は一年目に、後者は二年目に産卵し、世代時間はそれぞれ450日、780日と見積もられた。春季には成熟個体が夜間に上方へ昼間に下方へ移動する日周鉛直移動がみられ、未成熟個体では逆の移動パターンがみられた。これは未成熟個体が成熟個体からの共食いを回避するためと考えられた。このような結果から、近底層サンプルの欠落は、出現個体数やバイオマスの深刻な過小評価、生活史や個体群動態の誤った見積もりを招くということが示唆される。